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Kohei Fujii
KOHEI,Fujii
環境経済学
経済学部 経済学科
藤井 康平先生
私の研究分野は「環境経済学」です。環境経済学では、気候変動問題や廃棄物問題をはじめ、幅広いテーマを扱います。その中で私が専門としているのは「環境政策過程論」です。環境政策はどのように決まるのか、ということを中心に研究しています。
また、「地域再生」「地域活性化」をテーマにした研究も行っています。地域の資源や再生可能エネルギーに着目し、それらを用いてどのように地域を活性化させることができるかを研究しています。
高校までは、問いと答えがある程度明確だったように思います。与えられた問いに対して、どの数式を使えば答えを導き出せるのか、といったことです。
しかし大学に入ると「そもそも自分が何を明らかにしたいか」考えることが求められます。そして、その問いに対する正解は必ずしもあるとは限りません。どんな方法を使えば自分が知りたいことに近づけるのか、といったことを自分自身で考える必要があります。
「自分自身が生きていく社会を考えること、また社会をつくる一員として、正解のない問いに向き合い、考え続けることはとても大事なことだ」と、私自身、大学での学びを通して気付きました。
大学の非常勤講師などもやりながら、研究機関(東京都の関連団体)の研究員として6年間勤務しました。研究所での研究も面白く、やりがいがありました。
学生に教える、学生と学ぶといった「次世代の育成」が非常に大事なのではないか、と考え、大学教員を志すようになったタイミングで、北星学園大学の公募を見つけて応募し、採用となりました。
私は10年前から「オーストリアの地域再生」について研究をしています。北海道とオーストリアには多くの共通点があります。人口はオーストリアの方がやや多いのですが、面積はほぼ同じですし、自然環境や景観も非常に似ていると思います。
これまで取り組んできた、「オーストリアの地域再生」についての研究成果を、何らかの形で北海道に適応できるのではないか、と考えています。
2014年当時、日本では「地方創生」「地域再生」という言葉が盛んに言われ始めていました。
オーストリアでは、既に「小さな村が地域の資源を活かして豊かな地域づくりを行う」事例が数多くありました。
日本では、例えば「中山間地域の過疎化」などが問題になっていたため、地域の力を最大限に生かした「地域再生」のヒントがオーストリアの事例にあるのではないか、と考え、調査を続けてきました。
オーストリアでは国内の大部分のエネルギー生産を「森と水の恵み」が担っています。豊かな森林を活用したエネルギー生産、具体的には木質バイオマスを燃やしたときに発生する熱を地域で利用する「地域熱供給システム」が全国各地に整備されています。また、水力発電が多いことも特徴です。
日本も森や水が豊かな国です。自然条件がよく似ているオーストリアの事例をモデルケースとして、日本でも同様の「地域再生」ができるのではないかと考え、研究を進めてきました。
ひと言で「経済学」といっても、様々な考え方がありますが、現在主流とされているのは「得られる便益がいちばん大きくなるような政策が望ましい」という考え方です。これを「社会的余剰の最大化」と言います。
一方で、実際に政策を決める場面では経済効率性以外の側面、例えば、それまでの歴史や地域の慣習などが重要視されることもあります。
私はそこが理論と現実のギャップになっていると考えています。理論上、こうすれば「社会的余剰の最大化」が達成できるのに、なぜ実際の政策は違うのか、という点に注目して環境政策の研究をしています。このようなギャップに気付くことも、社会をより良くしていくことに繋がるのではないか、と思っています。
環境経済学はひとことで言うと「経済学の考え方を使って、環境問題の解決を目指す」学問分野です。ただし、その中身は多種多様で、様々な考え方の研究者がいる分野でもあります。
現在の主流は、ミクロ経済学を応用して環境問題の解決を目指すというものです。その他にも現在の資本主義体制こそが環境問題を引き起こした原因である、と考え、資本主義自体を捉えなおし、環境に配慮した制度の下で経済活動を行うべきではないか、といった立ち位置もあります。
3年次後期に開講している環境経済学の講義は、「理論と現実のギャップを学生に考えてもらいたい」という思いをもって行っています。前半は、ミクロ経済学に基づいた理論を、後半は、実際の環境問題に関する事例を取り扱います。
後半の事例では、気候変動、資源・エネルギー、公害、廃棄物など様々な環境問題を取り上げます。学生達が既に知っていたり、身近に感じたりするような具体的な問題と、授業前半に学んだ理論との距離感を感じてもらえれば、と思っています。
経済学部経済学科では2~4年生までの3年間、ゼミ(演習)に所属します。私のゼミでは、2年生で環境経済学の基礎を学んだうえで、3・4年生は学年ごとに学生主体で取り組むべき課題を決め、実際に調査研究活動を行うというプロジェクト型で進めています。
今の4年生は前任の先生から受け継いだ学生です。着任したばかりの私がゼミで何を扱うか検討していた中で、当時3年生に進級したばかりのゼミ生達は「海洋ごみの問題に取り組みたい」という強い意志を持っていました。
そこで「海洋ごみの問題をプロジェクトとしてやってみよう」と決め、活動を開始しました。紆余曲折ありましたが、現地の方々等からの協力を得て、苫小牧の勇払マリーナに海ごみ回収装置(シービン)を設置させていただきました。現在は、回収した海ごみの分析や、こういった取り組みが地域の環境意識にどのような影響を与えるのか、といった研究を進めています。
3年生は「アップサイクリング」に取り組んでいます。アップサイクリングとは、ごみのようなマイナスの価値を持つものに手を入れて、プラスの価値を持つものに生まれ変わらせる取り組みです。
規格外のじゃがいもを雪室で保存することで甘みを引き出す、道内各地の海ごみを集めて「海ごみアート」を作るなど、様々なアップサイクリングを試行錯誤しながら取り組んでいます。
環境汚染や自然破壊が起こると、経済や社会に様々な悪影響が出てきます。そしてそれがさらに進むと、人間の生命にさえ影響を及ぼします。
そうならないために、経済学的なアプローチで問題の解決を目指すのが環境経済学の基本的な姿勢です。私たちが「どこでどのような問題が起きているか」「私たちにどのような影響があるか」をきちんと認識することは非常に重要です。環境経済学は、自身が生きる社会の中にある問題に気付き、解決方法を考えるための理論の枠組みを築くうえで、役に立つと思います。
伝統的には汚染物質の排出を法的に規制する手法もとられてきましたが、最近では市場メカニズムを利用した経済的な手法に注目が集まっています。日本でも導入が検討されている「排出量取引制度」も経済学的なアプローチの一つです。
現在、二酸化炭素の排出による地球温暖化が問題になっています。この問題について経済学的なアプローチで解決しようとすると以下のようになります。
企業が排出する二酸化炭素に対し、国が課税します。いわゆる環境税です。すると、企業は「二酸化炭素を排出すること」を「費用」とみなすようになります。この費用を減らすために、企業は生産量を抑えたり、技術革新によって二酸化炭素の排出量を削減したりする必要が出てきます。その結果、二酸化炭素の排出量が減ることになります。これが「経済学的なアプローチ」です。
経済学的なアプローチにも難しい点はあります。例えば環境税は、いわゆる「需要と供給のグラフ」をもとに、均衡点を目指して課税する必要があるのですが、現実ではなかなかうまくいきません。このように理論上正解が明らかだと思われることでも、現実とギャップがあることが結構あるんです。
それでも試行錯誤しながら、理論と現実のギャップを埋め、環境保全と経済発展のバランスがとれた社会を作っていく必要があると考えます。環境経済学は、環境と経済、環境と人間社会の関係を捉え直す重要な学問であると思っています。
大学は「何にでもチャレンジできる場所」だと思います。何を学びたいか決めてから大学へ進学するべきだという考え方もあります。しかし、私は自分自身がそうだったように「何をやりたいか分からないので、まずは大学へ行ってみる」というのもいいと思います。
大学はやりたいことを見つけるにはうってつけの場所だと思うので、これから何をやろうか考えている人も、ぜひ大学に来てほしいと思います。
北星学園大学のいいところは、バラエティーに富んだ教員がいて、様々なことを学べるところだと思います。教員と学生との距離が近く、気軽に相談しやすいことも魅力です。
進路に迷っている人は、自分が何をやりたいかを見つめ直すことも大事だと思います。今はやりたいことを見つけられなくても、大学に入ったら決めよう!という気持ちがあれば、ぜひ北星学園大学に来てほしいです。
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藤井 康平先生